Switchが買えないから、任天堂元社長の本「岩田さん」を買ったら超良かった話

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任天堂 Switch が手に入った人はどれぐらい日本に居るのだろうか?任天堂 Switch 購入戦争に参加したものの、抽選で外れまくって心が折れて、早々に戦線離脱。

しかし、どうやったら任天堂 Switch を買えるのかを調べる過程で毎日「任天堂」とググっていたところ、ほぼ日 のこの記事が目に入った。

www.1101.com

少し立ち読みして「これは最後まで一気読みしたくなるヤツや!」と思ってKindle版を即購入し、実際に読んでみたが予想通り一気読みだった。

プログラミングや経営学の専門的な話だけに閉じた内容ではないので、プログラマーや経営者でない人にもオススメの本になっている。
進路に悩んでいる大学生や、今の仕事が自分に合っているのか悩んでいる社会人には特に刺さる内容だと思い書評を書くに至った。

本書の構成

本書の構成は以下の通り。

  • 第1章:岩田さんが社長になるまで。
  • 第2章:岩田さんのリーダーシップ。
  • 第3章:岩田さんの個性。
  • 第4章:岩田さんが信じる人。
  • 第5章:岩田さんの目指すゲーム。
  • 第6章:岩田さんを語る。(宮本茂が語る岩田さん、糸井重里が語る岩田さん)
  • 第7章:岩田さんという人。

第1章〜第5章・第7章は、学生時代〜HAL研究所任天堂社長に至るまで、どうやって岩田聡さんが形成されていったのかのストーリーがベースになっている。
人格者でありながら優れたプログラマー&経営者であった岩田聡さんが何を考えて、何を実践してきたのかが、岩田さんの言葉で分かりやすく書かれている。

第6章は、一緒に任天堂の黄金期を作ってきた宮本茂さん、MOTHER2 の開発をきっかけに知り合った糸井重里さん、の2人から見た岩田さんのエピソードが語られている。故人の伝記は お涙ちょうだい 的な本になりがちだが、本書は良い意味であっさりしていて、その辺りのバランスも最高だった。

実際に読んでみた中で、この本の中で今後の人生で何度も見返したくなる岩田さんのことばを以下に記載していく。

才能というのは、ご褒美を見つけられる能力

この才能の定義を見て、「なるほど!!!」とすこぶる感動したので、この本のモトを完全に取ったなと思った。
本書では 何を仕事にすべきか といった話はよく出てくる。例えば、

自分が注ぎ込んだ苦労やエネルギーよりも、ご褒美のほうが大きいと感じたら、人はそれをやめない。だけど、返ってきたご褒美に対して、見返りが合わないと感じたときに、人は挫折する。

自分たちがすごく苦労したと思ってないのに、妙に評価してもらえるときというのは、放っておいても、どんどんいい結果が出て、いい循環になって、どんどん力が出ていく状態。それが自分たちに向いている得意なこと。そうじゃないことは向いてないことだ、というふうに、わたしはだいたい判断していますね。

山内さんはよく「向き不向き」でものを語りました。それは、わたしが会社を経営するにあたっての軸になっている「得意なことを伸ばす」という才能論と根っこは同じなんですよ。当時のわたしは若かったですから、「こんなに人を向き不向きで判断したら努力のし甲斐がないじゃないか」というふうにさえ感じたものでしたが、いまにしてみると、やっぱり本質を言い当ててらっしゃったなって思えます。(kuwablo補足:山内さんは岩田さんの先代の社長)

などなど。 費用対効果ならぬ疲労対効果が良い仕事じゃないと続かないよ、ということを繰り返し話している。岩田さん自身も、高校時代に自作のゲームを作ったら友人が褒めてくれた経験が自分に良い影響を与えていると振り返っていた。

自分はエンジニアをしているが「この仕事は自分に向いているのか?」とずっと悶々としていたが、この言葉を目にしてから視界がクリアになった気がする。
就職活動や転職活動をするときは、これまでの人生で「そんなに頑張ってないけど、やたら褒められて嬉しかったこと」の共通性を見出して、職種を絞り込んでいくと確かに合理的だ。
「好きなことを仕事に!」というフレーズを聞くたびに「そもそも、そんなに好きなこと無いんだけど。。」と思っていたので、まさに目からウロコだった。

なお、好きなことを仕事にしたから結果が出るわけではないことを示す記事もある。

blog.tinect.jp

例えば自分の場合は、チーム内でバラバラになっている要件を整理して解決策まで導いた経験は周りから評価されたし感謝もされた。
今後のキャリアとしては、エンジニアリングに片足を突っ込みつつ、チーム全体の状況を俯瞰して目標設定やタスク整理をするマネージャーのロールを目指していこうと思う。(注:kuwabloは、ゴリゴリ平社員です)
自分のToDoの第一歩として、早速マネージャーロールの人との面談をセットした。

好きか嫌いかではなく、「これは、自分でやるのがいちばん合理的だ」と思えたら、覚悟はすぐに決まります。

15億の借金がある状態でHAL研究所の社長になることを引き受けた理由が知りたかった(しかも、当時32歳!)けど、とことんシンプルな回答だった。
やりたい仕事かどうかではなくて、自分がやるべき仕事かどうかの観点で仕事を引き受ければ腹をくくれる。

ただ、チーム全体を見渡して「コレ自分がやったほうが良いな」と思えるようになるには、チームメンバー全員がお互いに適性を知る必要がある。そのためには、普段からのコミュニケーションが重要(岩田さんは社長になった直後から全社員と定期的に1on1をやっていた)だし、お互いを尊重できる関係性が大前提。まさに

自分にはないものをその人が持っていて、自分にはできないことをやっているということに対して、敬意を持つこと。この敬意が持てるかどうかで、働くことに対するたのしさやおもしろみが、大きく変わってくるような気がするんです。

の通りだと思う。
自分の経験を遡っても、信頼関係ができているチームの場合は仕事の押し付け合いが発生しなかったし、「これ自分がやったほうがチーム全体にとってプラスだな」と無意識にメンバー間で合理的なタスク割りが出来ていた。

現在はリモートワークが続く状況でチーム内のコミュニケーションが難しくなっている状況なので、意識的にお互いを知る・お互いを尊重できる仕組みを作る必要があると感じる。
自分のToDoとして、オンライン飲み会を企画してみる。

「いまあるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。いちからつくり直していいのであれば、半年でやります。」

ゲーマーではない自分も流石に知っている、もっとも有名な岩田聡さんの名言。
4年かけて進めていたゲーム「 MOTHER2 」の開発が破綻しかかっていたときに、助っ人として開発現場に呼ばれたときの一言だったらしい。
この名言を初めて聞いたとき、凄腕だけど傲慢な人なのかな?と思っていたが、この本を読むとそれが誤解だったことが分かる。
岩田さん本人も MOTHER2 に必要な要素は自分が入るまでの4年間で作られていたと明言している。実際に

世の中のありとあらゆる改革は現状否定から入ってしまいがちですが、そうするとすごくアンハッピーになる人もたくさんいると思うんです。

というコメントも本書にはあり、むしろ最善の策はイチから作り直すことだけど、後から現れた自分が現場の雰囲気を壊さないように 既存修正 or 新規作成 の2択を提示した、らしいので、心のなかで岩田さんに謝罪した。

また、糸井さんいわく、半年でやりますと宣言した後に、自分ひとりで黙々と直すのではなく、既存メンバーも含めてスタッフ全員がゲームを治せる仕組みをまず作ったから成功したとのこと。
誠実にアウトプットしてきた人を否定してアンハッピーになる人を増やすのではなく、スクラムを組んで全員で前に進めるような環境を作ることが大切だと分かる。
糸井さんが岩田さんを形容する際も

思えば岩田さんはずっとそう言い続けてるんだけど、みんながハッピーであることを実現したい人なんですよ。自分がハッピーであること、仲間がハッピーであること、お客さんがハッピーであること。

と話をしていて、いかに周囲をハッピーにするかをずっと考えて、かつ行動してきたんだと胸が熱くなった。
自分は「こうあるべきだ」と思ったら何も考えずに改善案を口にだしてしまう性格なので、これまでつくりあげた人たちの善意・熱意・思いを否定する提案じゃないかな?この改善案で皆がハッピーになるのかな?と自問自答してから発言するようにしたい。

面談のいちばん重要なことって、相手が答えやすい話からはじめる

面談や面接をする機会が多いので、どうやったら上手く進められるかを悩んでいたが、本書で書かれている岩田さんの社員との面談方法は非常に参考になった。
必ず実践する手順が以下の2つ。

  1. まず、相手が答えやすい話から始める(岩田さんは「どうして、任天堂に入ろうと思ったの?」と聞く)
  2. 相手自身のことを聞く(岩田さんは「いままでやってきた仕事のなかで1番おもしろかったことは?1番つらかったことは?」と聞く)

自己紹介の後に唐突に相手のエピソードを掘る(上記の手順2)場合は社交性がない人などは可能性が一部しか見れないので、 相手をほぐしてからエピソードを掘る(上記の手順1→手順2)とのこと。
面接官は相手をほぐしてから本性を引き出すべきという岩田さんの意見は100%正しいし、そのためには相手が ほんとうの自分 を表現できるような流れを作る必要性が面接官にはあると再認識した。
特に、面接する際に相手から上手いエピソードを引き出せなかった際は

わたしは、人と人とのコミュニケーションにおいても、うまく伝わらなかったらその人を責めずに、自分の側に原因を探すんです。コミュニケーションがうまくいかないときに、絶対に人のせいにしない。

という岩田さんの言葉を胸に刻んで、面接する側の自分の至らなさだと自省の念を忘れないようにする。

コンピュータにできることは、コンピュータにやってもらえばいいんですよ

糸井さんが岩田さんから言われていて憶えている一節が意外だったので心に残った。

もうひとつ憶えているのは、「コンピュータにできることは、コンピュータにやってもらえばいいんですよ」って岩田さんが言ってたこと。

ITの中でもクラウドの思想に非常に近い言葉だと思う。
コンピュータに投げれる部分はコンピュータに投げて、ビジネスに直結する本質的な部分を人間が担当する

システムを作ったり運用する側に居ると、システムを作ることが目的になりがちだが、システムの向こう側にいるユーザーやシステムを管理する開発部門など関わる人間全員をハッピーにしているかの視点は常に持ちつづける必要があると思う。

亡くなってから、息子さんが「家のなかでも、いい父親でした」って、はっきり言ってたのが印象的でした。

これも糸井さんの章で書かれていた。この本の中でも最も好きな一節。
良い経営者でありながら、良い父親でもあったことが分かって、少しホッとした。

任天堂の社長の岩田さんは、ヒラリーマン(平社員×サラリーマン)の自分の25倍ぐらいは忙しいと思う。にも関わらず、家庭への貢献を怠らない姿勢が本当にかっこいい。
仕事の状況によっては、仕事を頑張る = 家庭に負担をかけてしまう = 良い父親になれない時もある、という自分の考えが甘チャンだったと思い知った。

今後仕事が忙しくなった時も「良い会社員と良い父親は両立できるぞ!岩田さんのように!」と自分を奮い立たせるようにしたい。

その他のことば

他にも様々な金言があるので、以下に引用していく。
ピンときた言葉があったら、ぜひ本書を手にとってほしい。

「バカもん!」と言われやすい人は、ものすごくたくさんのことを短期間に学べるんです。

判断とは、情報を集めて分析して、優先度をつけること

物事って、やったほうがいいことの方が、実際にやれることより絶対多いんですよ。だから、やったほうがいいことを全部やると、みんな倒れちゃうんです。

「人は全員違う。そしてどんどん変わる」

「あなたはいまハッピーですか?」

「言いたいことを言ったあとだったら、ある程度、入るんですよ、人間って」

「もし逃げたら自分は一生後悔する」

わたしはそのとき、自分をつねにいちばん忙しいところに置くと決めていました コンピュータの進捗が速いのは、トライアンドエラーの回数が圧倒的に多いから。

少なくとも「ここがボトルネックになっているはずだから、これをこう変えれば全体がこうよくなるはずだ」というふうに行動しなければいけないんですけど、わりとそれができないんですよね。

山内さんの言うことは、わたしのなかに残っています。「いままでと同じことしてたらあかん」というお話は、もう、ほんとうに何度も何度も聞きました。

まとめ

「今のままでいいのかな?」と自分のキャリアに不安がある人は是非手にとってほしいし、絶対に後悔しないはず。
特に「才能というのは、ご褒美を見つけられる能力」という言葉を軸に自分の生き方を見返すと、次のステップへのヒントになると思う。

岩田さんのご冥福をお祈りします。